研究開発課題概要
超高齢社会においては、医療費や介護費の削減のため、個人ごとに健康や運動管理を行うためのサービス提供が必要です。そこで本研究では、身長や体重などの情報や生活運動から、クラウド上に生活者の分身であるデジタル身体モデルと生活履歴データベースを構築し、生活の中で自然に計測された運動情報を用いた生活運動シミュレーションやデータ解析を行うことで、個人にとって最適な運動・生活処方の提供を行う新たなサービスの創出を行います。
研究開発内容
本研究開発課題で達成するPOC
超高齢者社会において健康寿命と平均寿命との差が拡大するにともない、一般社会において医療・介護費の拡大が社会問題となっている。また企業においても、医療費にかかる経費削減、生産性の向上、創造性の向上、企業イメージの向上などの観点から社員の健康管理、健康維持向上を目指す健康経営の視点が重要とされている。とりわけ、運動やスポーツに期待される効果への注目が高いが、モチベーションの維持が困難であるといった課題があった。このため、健康のモデル化による健康度の数値化、疾病予測による行動変容と個別最適な運動・生活処方を提供する革新的なマルチサイドプラットフォーム型のスマートインタラクティブサービス創出を目標とするPOCの達成を目指す(図1)。
研究開発課題の全体構想
未来社会構想
本研究開発を実施することにより、生活者や勤労者が、とくに意識することや負担を強いられることなく、健康診断サービスのインタラクティブ構築に参加し、またそのサービスから便益を得ることで健康増進につながり、社会的に多大なる価値が生み出される。また、健康増進に関わるスマートインタラクティブサービスの実現により、特定のユーザや企業に負担をするのではなく、マルチサイドのプラットフォームを形成することにおいて集まった情報が有効利用され、収益性を担保するしっかりとしたビジネスモデルが成り立つことで持続的な社会的価値の創出が実現される。
また体力診断・健康管理サービスを提供することにより、医療費や介護費の社会的な削減や健康経営による産業力維持、自身の気づきからスポーツや運動への意欲形成を促進することによる健康増進に伴う各個人のQOL向上が可能な未来社会が実現される。
最後に、本研究課題で提案しているように、センサを多角化、さらに身体の様々な部位や生活シーンへと応用し水平展開を図ることで、物理的には離れている人間と環境がデジタルダミーやデジタルファクトリなどの健康デジタルモデルの存在する情報空間(=クラウド)を介して一体化していく。いわゆるスマート社会では、様々な機器や生産・流通システムなど物理的なインフラストラクチャーが繋がっていく。そこに人の分身としての身体情報(デジタルダミー)が自己の分身として様々な生活シーンを再現しシミュレーションしてくれる情報空間が、ここで構築されるCPHS環境下において、生物としての人間と物理的なインフラストラクチャーを有機的に紡ぎ、環境や生産が人に自動的に適合しようとする今までにない未来の社会システムが構築されうる(図4)。
It is crucial to provide personalized health and exercise management service so as to reduce national health care costs in upcoming super-aging society. In this project we create an innovative smart interactive humane service that provides personalized rational health and exercise instruction, which are calculated by daily life movement simulation and data analysis with developing personalized digital human model and life log database.
本研究開発課題では、新たにリビングフィットネスという概念を提唱する。これは、例えば装着型のコネクティッドデバイスやインタラクティブルーム等の、ネットワーク化されたマイクロコンピュータ内蔵のセンシング要素(IoTセンサ)とアクチュエーション要素(製品)を活用した身体・行動計測インフラや可視化ユーザインタフェース等を構築する。そして個人ごとに完全にパーソナライズされたデジタル身体モデルをクラウド上に実装させることで、獲得したデータをデジタルモデル上でシミュレーション評価し、生活者に意識させない計測とフィードバック(身体能力維持・矯正・負荷低下・危険防止のためのアシスト用品や助言・サポート)を低コストで広範囲に行うことで健康寿命を延ばし人の尊厳を高める安全で安心なサービス提供の生活環境・労働環境の実現を目指す。
ここでは、まず本提案で目指す健康モデル化スマートインタラクティブサービスの全体概要を図3に示した後、その実現を目指し、1年半の探索研究期間における実施内容についてその概略の説明を行う。
まず一般家庭では、椅子や机、階段や取っ手などをデジタル身体モデルで動作シミュレーションを事前に行うことで、日常動作がエクササイズとしてデザインされ内包されたリビングフィットネス環境が提供され、意識することなく日常生活の中でエクササイズが行われ、体力の向上や維持が可能となる。また職場では、職場で実施される健康診断情報と体力診断を統合化することで、体力の衰えを感じ始めた中高齢年齢者に向けた体力測定・診断と体力向上対策について運動・食事・睡眠の点からサポートするワンパッケージシステムを、また医療や介護施設などでは、加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、生活機能が障害され心身の脆弱性が出現したフレイル状態の人に対し、やはり自宅や介護施設にエクササイズデザインの考えを取り入れ、無意識のうちに健康状態へ回復させるサービスを、スポーツ愛好家に対しては、スポーツアシストやフォーム矯正、トレーニングケア、エクササイズデザインなどのサービス提供が可能となる。また、パーソナライズドデジタル身体モデルを活用することで、各個人に完全カスタマイズされたさまざまなスポーツ製品や健康関連器具の提供も実現される。
社会的・経済的なインパクト
我が国が,現在,直面しつつある超高齢化社会において、日常生活、スポーツなどの余暇時間、労働・作業時における事故・危険を未然に防ぐことや高齢者の身体能力を維持することは、医療費や介護費の社会的な削減のために不可欠である。また、超高齢化社会に備えるためには、経済基盤である産業力維持と、社会保障コスト上昇防止の問題を同時に解決する必要がある。産業力維持のためには、永く働けるように労働者の適切な健康経営が必要である。ここで、社会保障コストの低減のためには、経済活動から引退した後も健康的な生活の維持が必要である。スポーツ立国への国家戦略も相まって運動やスポーツへの期待は多大なものがあり、IoTによって発達したスマート社会においては、労働者・生活者個人個人にあった健康管理サービスが必要不可欠になると予想される(図2)。また、先端的な情報化技術を計測やアシスト用品のカスタマイズ生産に適用することで産業のサービス化・スマート化を一層進展させ、さらに高齢化社会に適合した「ものづくり立国」を実現するとともに、安全・安心に関わるサービス生産体制における高付加価値化の実現が可能となる。